PDCAって本当に必要? ある企業が陥った悲劇とは?

共和政ローマ期の政治家であり軍人でもあったユリウス・カエサルは、「人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は、見たいと思う現実しか見て
いない」と言ったそうです。(引用:「日本人へ リーダー篇」 塩野七生)

古来から人というのは、自分が興味のあるものや見たいものだけしか、見ない傾向があります。

同じようなことを、ある企業の経営支援の際に実感しました。

 

ある会社での海外事業の立ち上げでの出来事

この会社は、創業家一族によって経営されていますが、現在のトップである二代目がその圧倒的な行動力で社員をリードし、経営で事業を拡大してきました。

現在は非常に高齢なのですが、まだまだ現役で陣頭指揮を取っています。

この会社もオーナー系企業に見られるように、オーナーは非常にスピード感や行動力を重視しています。

このため、オーナーが会社にやってきた時に、社員がオフィスで執務をしていると、

「何でこんなとこにいるんだ!外に行って注文を取って来なさい!」と怒り出します。

周りが、そこに居るのが営業の社員でなく、事務の社員と言っても収まりません。

とにかく、目の前で社員がデスクに座っているのを見ると、楽をしていると思う傾向があるようです。

その会社が、オーナー肝いりの新たな取り組みとして、東南アジアの各国で生産・販売をすることになりました。

具体的には、現地のパートナー企業を見つけ出し、合弁事業の設立や技術指導を行うものです。

しかし、会社の歴史のほとんどを日本国内で事業をしていたため、残念ながら社内に海外ビジネスに精通した社員がいません。

そこで、急遽外部から社員を採用し、タイ、ミャンマー、インドネシアなどの国に送り込みます。

不幸なことに急遽人材を登用しただけで、組織を整備しなかったため、海外事業が徐々に歯車が狂い始めます。

オーナーは「各国で合弁事業を立ち上げろ!」「技術指導先を○○件見つけて来い!」と大号令をかけますが、

この新たに採用された海外要員の活動を管理する部署がないため、事実上オーナー直属になってしまいます。

オーナー自身も海外事業のことは判らないし、こまかな活動管理をする時間も意志もないため、海外要員が好き勝手に活動し始めます。

担当者は何と活動を始めるに当たっての行動プランも作っていなかったのですが、オーナーには、「合弁事業の契約が取れました」とか「技術指導先が見つかりました!」と景気のいい報告(オーナーが見たいもの)をします。

しかし、実態は契約が取りたいがために自社に不利な契約を取り交わしていたり、契約そのものをのらりくらりとはぐらかしたりします。

また、契約してもその先の会社設立の作業を進めていなかったりということも発生します。

各国のパートナーとしては、「契約を交わしたのだから、はやく会社設立を」「いつになったら契約書を締結するのか」といった不満が、担当者に寄せられますが、一向に事態が進展することはありませんでした。

いよいよパートナー達がしびれを切らし、東京のまで出向いてクレームをするようになって始めて、無茶苦茶な活動をしていたことが判明します。

パートナーの中には、「訴訟も辞さない」という最悪の状況に陥ってしまい、自社だけでは対応しきれなくなり、私たちが支援することになりました。

 

なぜこんなことになったのか?組織運営のキモの欠如

この一件を引きおこした決定的な要員は、「社内に海外要員の活動を管理する部署や仕組みがなかった」ということです。

いわゆる「野放し」状態で、組織運営のキモである「PDCA」が回っていなかったのです。

PDCAとは、

  • Plan(計画)
  • Do(実行)
  • Check(評価)
  • Action(改善活動)

というサイクルを回すことで、組織が目指す目標を実現していく活動を言います。

この会社には、

  • 海外で事業開発するにあたり「どの国で」「いつまでに」「誰が」「何をするのか」という計画(Plan)がなかった
  • 各自が何をするのかが、個人任せになっており、勝手に実行(Do)していた
  • 定期的に活動を確認(Check)する会議体もなければ、活動が効率的に進められているかを評価する基準もなかった
  • そのため、今後何を改善すべきかの活動(Action)もなかった

という状況でした。

しかし、オーナーにとっては、日本のオフィスと違って、海外要員の活動が見えないので、見たいと思う現実(契約締結の連絡)しか見れなかったのです。

支援に入った我々が最初に行ったのは、

  • 各国の活動がどのように進められているか「現状把握」する
  • その活動の状況が、目的とどのくらい乖離しているか「ギャップ」を特定し、そのギャップを埋める施策を策定する
  • その施策の実施に対する評価基準や進捗確認の仕組み(定例会議)を開始する

と言った、まさにPDCAを導入・定着させるものでした。

このリカバリー・プランに従って、各国のパートナーと地道な活動を進めた結果、パートナーとの信頼関係も修復され、合弁事業や技術指導に向けて協議が再開されました。

 

最後に

本日の記事はいかがでしたか。

あなたも見たいものだけしか見ていないようになっていませんか?

参考文献

yujiro akimoto
  • yujiro akimoto
  • 【経歴】
    兵庫県神戸市出身。

    大学卒業後は、日系の精密機器メーカーに入社。約9年間に渡り人事、海外販売 (東南アジア地域)、営業支援などの業務を経験。

    その後、コンサルティング業界に転職。
    戦略コンサルタントとして、通信業・製造業・専門サービス業などのクライアントに対する戦略立案や戦略の実行支援などに携わる。

    コールセンター会社の経営企画と人事の担当役員として事業会社の経営に携わった後に、株式会社秋元アソシエイツを設立し、組織の生産性向上などのコンサルティングサービスを提供する。

    【資格】

    Marshall Goldsmith Stakeholder Centered Coaching (Certificated Coach)
    全米NLP協会 プラクティショナー
    TOEICスコア: 915

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